社員の健全な仕事観と当事者意識の醸成法 - 1|全6回コラム|人材育成・人材教育
社会人の健全な価値観とは何か
昨今、会社の不祥事、若年層の不健全な振る舞い、アルバイトスタッフによるコンプライアンス違反などを報道でよく耳にします。これらの原因は、おそらく当事者がやってはいけない「基準」を知らないからではないでしょうか。
私は、若年層の研修会において、まず「皆さんがご存知ないことは、お教えします。気づいていないことは、伝えます!」というフレームワークをきちんと理解していただき、そこから研修を立ち上げます。
「社員の健全な仕事観と当事者意識の醸成法」。このテーマがすべての土台と信じて今まで20年余り、40種類前後の企業研修会を実施して、計 4 万人以上の方々へお伝えしてきました。その人材教育手法のエッセンスをこれから 6 回にわたる本連載にて述べていきます。
三方良しの考え方に準ず
今回は「社会人の健全な価値観とは何か」。まず価値観とは、どのようなものの見方や考え方を持っているのかという「物事の判断基準や優先順位づけ、または何に重きを置いているのか」ということだと思います。
そして、健全とは「それが三方良し」であるということです。つまりは、①世の中のお役に立つこと、②顧客(周囲)のお役に立つこと、③自社(自分)にプラスになること、です。
社員に健全な価値観が宿るには、親御さんの躾・教育・影響が何よりも大きいと思いますが、そこには私たち人間が持って生まれた天命もあるような気がします。それを前面に打ち出してしまっては、弊社のような教育研修会社は、世の中に不要な存在になるわけですから(笑)、あまり声を大にできません。
しかし、私は企業研修の朝一番の第一声で、 「人は、そんなに変わりません。三つ子の魂百までと言いますね。また、 2 度あることは 3 度あるとも言いますね。いいえ~もっとありますよ。無用なことに気づかなければ、さらに 4 度も 5 度も繰り返してしまいます。ですから、よっぽどの出来事を経験しないと人は変わりません!」(シーン……、じゃあ、研修会なんて無駄じゃないか!という声が聞こえてきそうですが…)「しかし、 1 つの答えを持っています!『本当に自分は成長したい、変革したい、ここを改善したい、またはここを伸ばしたい』と本気で思い、そして愚直に実行した人だけが変わります!!」「それでは、講師、この研修で変われますか!?」と問いかけられそうですが、それに対しては「経験上、両方あると私は思っております……。どちらになるかは、ご自身次第ということですね」
このような話から講義を始めることがよくあります。そして、健全な仕事観・人生観・人間観について伝えていきます。
価値観1:健全な仕事観とは
仕事をすることは、私たちが人としての人格を形成するうえで非常に大きな要因となります。どのような考え方や意識で仕事を捉えているのかによって、おそらく仕事の仕方も変わります。
繰り返しますが「仕事をする……」ということが人格形成につながり、人として成長をしていくわけです。つまり、仕事は「成長の場、人格形成の道場」といっても過言ではありません。
私たちは、仕事を通し成長し、そして上司・同僚・部下、お客様、お取引先様と関わり、人間関係構築能力を向上させています。仕事を通し、自分を認識し強みを活かし弱みを改善しようと努力するわけです。すなわち、そのこと自体が「成長」になるわけです。
また、ただ単に漠然と仕事をする、あるいは生活のためだけに仕事をするということよりも、この仕事(目標)を通し自己成長する、会社の目標へ貢献する、お客様へ貢献する等の意識・考え方を持つことが大切です。
さらに、仕事があって当たり前ではなく「有難い」と感じ、職場の皆とチームワークを形成しながらの「良い職場づくり」が、良い仕事へとつながっていきます。その価値観が、健全な仕事観といえるでしょう。私たちは、仕事を通じて成長し、納税をすることで国家に貢献し、社会人としての役割を果たしているのです。
以上のような認識を若手の段階で社員に持ってもらうことが何よりもまず大事です。
価値観2:健全な人生観とは
人生は一度しかありません。「両親から授かったこの命を何のために燃やすのか、自分自身をどう活かすのか」などと考えることは節目・節目で大切です。世の中のお役に立つ、人に貢献する、少しでも喜んでもらうことをやる、幸せに生きる、人生を楽しむ、健康で笑顔を絶やさない……などは健全な考え方です。
しかし、人生は紆余曲折、山あり谷ありで楽しい幸福感のみを感じるわけではありません。人それぞれ様々な問題があるでしょうし、問題は絶えないかもしれません。それを、どのように考え、どのように対応していくのかが、その人の人生観です。
健全な人生観とは、どのような状況でも前向きに捉え、「世のため、人のため、自分のため」に三方良しで生きる考え方です。人生は「考え方次第」で決まっていきます。しかしながら、これは「言うは易し行うは難し」です。絶えず自己研鑽を積み続けなければ、健全な人生観は醸成できないでしょう。
「継続こそ力なり」なので、社員には当たり前なことでも基本は徹底するよう常に働きかけることが肝心です。
価値観3:健全な人間観とは
ごく稀に「私は、人があまり好きではありません。人と接することが 苦 手です。人混みが嫌で……」などと言う方がいます。講義でも申し上げますが、本当にそうであれば、無人島で 1 人で暮らすことが一番ストレスはないでしょう。しかし、現実はそのようなことはできません。人は人との間で生きるから「人間」なのです。
一方、考えてみると私たちは歴史を継ぐために人間として生まれてきたのではないでしょうか。私たちは、両親からこの世に誕生しました。当たり前ですが、両親がいなければ自分の存在はありません。そのような人間誕生の原点を考えると「何が大切なことなのか」を立ち止まって考える必要があります。
とはいえ、価値観ですから押し付けや強要はできません。しかし、社会、会社・職場で合う(通用する)健全な人間観は厳然とあるのではないでしょうか。
人に優しく、人に思いやりを持つ、縁があって共に働く人々と仲良く仕事をする、お世話になった人にお礼をする(返報性) 、「ありがとうございます」と常に思い伝えることなどが健全な人間観を養います。
そして、身近な人、特に配偶者・子供・両親・兄弟・祖父母を大切にすることが、この健全な価値観醸成には非常に重要です(または、生き物を大切にすることなど) 。
社員の皆さんには、今一度自分自身の人間観を見つめ直し、自分自身の改善点に気づいてもらうことが、すべての教育の原点になります。
同時に、社会人教育で大切なことは「一貫性と継続性」です。予算がとれたから研修を実施する、今期は業績が厳しいから実施できない、ということよりも、経営理念に従った長期的な「人事ビジョン」を明確に持ち、そこに向かって進み続けることが重要です。